⑪筋書のないドラマ
ミステリーは好きです。
無実の主人公が意地悪な弁護士や検察に証人尋問でじりじりと追い詰められるような法廷ものは観ていてモヤモヤしてしまうが、謎を投げ掛けられたら解きたくなるもの。
小説の場合、最後まで読めば事件の真相は解るもの。
ですが、現実の裁判はそうはいきません。
無実を主張していた被告や、または真犯人が「実は私がやりました」と事件の真相を法廷で告白する──
「そんな大どんでん返しは起こりませんねぇ」
と裁判官。
何が真実なのかは裁判官はもちろん、検察も弁護士すらも知らない。
被告が有罪か無罪かは被告しか知らないのだよね。
事件を知らない第三者が集まって判決を下すのだから、不思議といえば不思議。そこに自分がいることがもっと不思議。
けれど、その結果は被告にも、被害者にも、そしてその家族にも、今後の人生に大きく関わってくるのだと思うと、無責任な発言、判決はできない。
被告が悪そうな顔をしているからといって「やっただろう」などと先入観を持ってはいけません。
『12人の優しい日本人』のように「あの人は人を殺すような人じゃないよ」などと判断されたら、被害者や被害者の家族はたまったものでありません。
証人の話は、ひと言も聞き漏らさないよう真剣に聞く。ちゃんと聞いていられるだろうか。眠くなったりしないだろうか。と心配していましたが、そんな心配は無用でした。
ドラマより、子供の話より、ママ友の井戸端会議より真剣に聞きました。
そして証人尋問。
これは苦手です。聞いているほうもちょっとドキドキ。
案の定弁護士の尋問。これは事件とは関係ない突っ込みだなぁ、と素人でも思ったていたら。
出ました。
「異議あり!」
ドラマのように立ち上がったりしません。息巻いて指さしたりはしません。検察も弁護士も法廷を歩き回り、証言台に手を置いて、証人の顔の前で目を見つめながら尋問する、なんてことはありません。
残念……。
最近はよくバラエティ番組でも言われているのでご存知の方も多いと思いますが、逆〇裁判にも登場するあの「静粛に!」の木槌。
あれもありません。
残念……。
それでも冷静に冷静に慎重に慎重に言葉を選び、検察VS弁護士。見えない火花が散っておりました。静かに、張り詰めた空気の中、筋書のないドラマは淡々と進んでいきました。
『もしもあなたに裁判員の通知がきたら ⑪』