⑫評議と昼食

f:id:kirinoatti:20191002113021p:plain


 証人尋問が終わると、裁判員から質問することができます。

 実際質問される方もいらっしゃるようですが、休息の時間、裁判官が「質問したいことはありますか?ご自身でされますか?質問しずらければ私から質問します」と代わりに質問して下さいました。


 さすがに法廷で質問する度胸はなかった……。

 

 証拠調べが終わると「論告求刑」に移ります。

 検察側が被告人に対して〇〇を求刑する。


 ここでいったん休憩が入ります。(続けて進んでもいいのに……というくらい休息はちょくちょく入ります)


 そして「最終弁論」 「最終陳述」と進み、審理は終わります。

 


 いよいよ『評議』の始まり。


 評議の進め方はその裁判所や裁判官によっても違ってくるようです。

 当選してしまったときには、裁判官に、初対面の方たちに意見を言えるのだろうか。そもそも法律も知らない人間に「意見」などあるのだろうか……。

 などなど不安だらけでした。私だけではありません。最初はみなさん意見が出ません。裁判官が質問するような形で、遠慮がちに話していました。


 裁判官もとても気遣ってくださいます。裁判官同士でも意見が分かれることもあり、「僕は違うんだよねえ」と話し始め議論になると、裁判員も意見を出し合うようになります。

名探偵コナン』でいえば、コナンと服部が裁判官なら、裁判員の私たちは蘭や園子や光彦たち。といった感じでしょうか。

 

 裁判官も私たちの意見を真剣に聞いて下さいます。


 ちょっとした疑問にも一緒に考え、納得のいくように説明して下さいます。


 何度も言いますが『解りやすい』です。
 おそらく中学生でも参加できるだろう、というくらい誰にでも理解できる言葉で説明、評議は行われます。何の心配もありません。


 証言で暴力団特有の言葉が出て来たことがありまして、質問したところ、暴力団の業界用語といいましょうか、暴力団の専門用語ですよ。といくつか教えて頂きました。お若い裁判官もつい最近知ったようで、裁判長から「〇〇裁判官も知らなかったんだよね~」と言われ照れ笑い。そんなものなのかと、ちょっとほっとする場面もありました。


 とにかく慎重に何度も何度も証言に食い違いはないか話し合います。
 検察側の三人の証言はほぼ一致するものでした。矛盾はない。ですが、検察側だけの証言を信じて判断することはできません。今度は被告の証言が真実だとしたら……矛盾はないか。どこが食い違っているのか。残された証拠や通話記録などと照らし合わせていきます。
 ひとつの証拠を様々な角度から見ていきます。

 

「真実はいつもひとつ!」

 

 と言っても、真実に形はない、見えない。事件の全貌を知る作家はいない。


 物的証拠はほとんどないなか、証言を分析しながら話し合いは進みました。

 この頃になってくると、名前も知らない裁判員の方たちとも打ち解けて雑談も交わすようになります。話し合いがしやすくなる半面、


 眠い。


 締め切った空気の悪い部屋の中、お昼を食べた後の評議は正直しんどかったです。裁判が終わった後、みなさん正直に「眠かった」と仰っていました。

 

 昼食はどこの裁判所も自由のようです。
 外食もOK。ただし、日当に含まれているのでしょうが……、自費です。

 ただ、ここ〇〇地方裁判所はビジネス街からちょっと離れていて、すぐ近くにはあまり食事する処がなく、ワンコインの日替わり弁当を職員の方が朝注文にいらっしゃるので、それで済ませる方がほとんどでした。

 東京から通勤している裁判官が、いつも私たちと共に駅弁を食べていらっしゃったのですが、ある日駅弁の話題で盛り上がりました。あの〇〇弁当美味しいよね~。食べたい! 裁判員の一人が言ったところ、「じゃあ買ってきますよ」と裁判官。
 次の日はお昼にみんなで駅弁を食べるという、想像もしなかった光景がありました。

 

『もしもあなたに裁判員の通知がきたら ⑫』