⑧事実は小説より奇なり?

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「実際の裁判は淡々と進みますよ。『実は私がやりました!』なんてドラマチックなことは起こりません」

 

 と裁判官が残念そうに首を振る。

 

 そのように淡々と進んでいきます。
 途中、休憩はこんなにあるの!? また休憩? というくらい間にちょこちょこ入ります。


 冒頭陳述によれば、今回の事件は『強盗傷害事件』

 被告はABCと強盗を計画し、ABCが事務所へ侵入。被害者に怪我を負わせ、金庫から現金を奪い逃走したという事件。
 実行犯であるAとBの供述によれは、被告は強盗の話を持ち込んだ主犯格であるという。
 この『A』と『B』そして強盗の話し合いが行われた場に一緒にいたBの彼女である『D』の三人が検察側の証人として。被告の友人で事件当時、被告と一緒にいたという『E』が弁護側の証人として、以後3日かけて証人の話を聞くこととなりました。


 いよいよ『証拠調べ』

 検察側から現場の写真。被害者の写真がモニターに映し出されます。荒らされた事務所の様子やこじ開けられた金庫、そして被害者の怪我の写真。
 少し緊張しましたが、思わず目をそむけたくなるような証拠写真はありませんでした。
 あまりに悲惨な写真が証拠としてあげられる場合。あらかじめ予告されることもあるようです。


 それぞれ立場の違う証人の話を聞きながら、事件が少しずつ見えてくる。それと同時に人間関係が見えてくる。


 被告とAは暴力団の師弟関係にある。
 Aが逮捕され、初めはBとC三人でやった犯行だと口裏を合わせていたのだが、Aが被告へ宛てた手紙が証拠として読まれた。初めは被告を気遣い、庇っていたが……。そこにはAの複雑で素直な思いが綴られていました。

 そしてBの彼女であるDさん。被告に借金をし、返せないためにBは今回の事件を持ち掛けられたという。このDさん。こんな女性にお願いされたら男性は引き受けてしまうのだろうな、そんな印象。
 そして弁護側の証人である暴力団組員Eの証言。
 このEさん。まるで強面俳優の〇〇さんのよう。
 人間てそれまで歩んできた人生が、話し方や佇まいから滲み出るものなのだなぁと、改めて感じる。
 まるでその役の為に用意された俳優の演じる二時間サスペンスドラマを見ているようではあるけれど、現実なのですね。

 淡々と進みはするが、生々しい人間ドラマが展開されていきました。


 法廷での内容に守秘義務はない。公開されているものに関して守秘義務はありません。

 守秘義務が課せられるのはふたつ。


『評議の秘密』と『職務上知り得た秘密』です。

 

 例えば『誰がどのような意見を言ったのか』『どう判決をするのか』『事件関係者や裁判員のプライバシー』は 家族でも言ってはいけません。
「墓場まで持って行ってください」とのこと。
 評議の間は窓も開けてはいけない。という徹底ぶりでした。

 

 重い裁判、重い判決の場合、この守秘義務は相当の負担がかかると思われます。
 裁判員同士なら話してももちろんOKなので、判決後も交流を持つ方たちがいらっしゃるようです。
 裁判官たちも「気分は? 大丈夫ですか?」「法廷中でも遠慮なく言って下さい」と度々声をかけてくださりました。
 専門のカウンセリングも用意されています。
 医者やカウンセリングに相談する際には話してももちろん差し支えありません。

 

 アメリカの陪審員にはこの守秘義務はないそう。


 ではなぜ日本の裁判員には守秘義務があるのか。


 評議の内容を公にされれば、誰がどのような意見を言ったのか、どのように評決をしたのかが公にされます。そうなると後で批判されることも起こりかねない。評議で思うような意見を言えなくなることを避けるため、裁判の公正と信頼を確保するために守秘義務はあるのですね。

 

『もしもあなたに裁判員の通知がきたら ⑧』